前回、「そこらの大工や工務店じゃダメや」という風潮ができあがってしまったと言いましたよね。
こうした状況に上手く対応したのが、ハウスメーカーです。
工業化の手法をもって均一のクオリティで家がつくれるとあって、
お客様のニーズをガッチリ捉えました。
しかも、マニュアル化されているので、大工が手仕事で家を造るよりスピードも速い。
名の知れない一介の職人にお願いするより、大企業であるハウスメーカーの方が
信頼できると思われたのも無理のない状況でした。
こうした流れは高度経済成長の時代以降、長く続きました。
しかし、大工の社会にも変化が訪れたのです。
それが「プレカット」という技術。
従来は手で材木に墨付けをして、ほぞ穴を掘っていたものを機械でやれるようにしたものです。
これは、ハウスメーカーの工業化の手法を、木造の在来工法に取り入れた画期的なことでした。
現在のプレカットは、一流の大工の手法を幾度もペーストして開発されているため、
ほぞ穴にピッタリ、ビシッとはまります。
まさに一分の隙もない仕上がりが可能です。
現在ではほとんどの工務店でプレカットを採用しています。
特に若手の職人はイノベーション(改革・革新)に対するアレルギーが無いため、
よく勉強して柔軟に新しい技術を取り入れています。
今はこうした若手の大工が主力となって現場を引っ張り、
現在では職人の有様が変わってきているのです。
かつては棟上げが終わったら、棟木に幣束を立て、建物の四方にお清めの塩と酒を撒き、
大工が祝詞を詠んだものでした。
つまり、大工は神事を取り仕切っていたわけで、ある種特別な存在だったのです。
ところが、ハウスメーカーの場合、お客さんとのやり取りは営業担当者が行うことが多く、
下請けである工務店や、職人たちは、お客さんとほとんど接点がありません。
現場監督ですら、例外ではないのです。
さらに下請けの職人たちはハウスメーカーの人たちとも、まず会うことがないです。
ですから、どんな人たちが、どんな風にこの家で暮らしていくのか、
ほとんど知らずにつくっていることも少なくありません。
そうなると、丹精込めて家を造っても、誰かから感謝してもらうということがなくなってしまいます。
どんな仕事でもそうだと思いますが、仕事をする上で、お客さんに感謝していただいたり、
「誰かのためになった、よかったな」といった充足感は欠かせません。
そうした思いがあってこそ、よい仕事ができると私は信じています。
そして、人と人との関わりや、働いている人たちの気持ちのあり方から考えていかないと、
いい家を建てることはできないと思っています。