間違いだらけの家での地震避難

■地震が来たらトイレに逃げ込め

地震の時にはトイレの中が安全だと聞いたことはありませんか。

この根拠は、トイレなどの狭い場所には柱がたくさん立っているので、天井や屋根が崩れてくる可能性が低いという考えからです。

 

確かに、ほぼ畳1枚ほどの空間の四隅には、

おそらく柱があり、その上には梁もかかっています。

崩れにくい場所であることは、あながち間違いでもなさそうです。

 

地震で倒壊した現場を見ると、

1階がすっかり潰れて真っ平らになっている家もあり、

2階や屋根面が傾いている家もあります。

 

家にも頑丈な部分があって、均一に倒れないのであれば、

柱の多いトイレや水周りが潰れない可能性も高いような気がします。

でも、もし潰れてしまえば、逆に1階のトイレにいたら、

確実に柱に挟まれてしまいます。

 

倒壊した家から助け出された人の奇跡談では、

たまたまできた隙間に助けられたという話がほとんどです。

これらを踏まえると、決してトイレが安全な場所とは思えません。

 

似たような話で、竜巻の時にもトイレに逃げるのが良いといわれます。

現実にトイレに逃げ込んで助かったという記事もあります。

竜巻の被害が多いアメリカでは、トイレ以上に

被害にあわない確率が高いのはバスタブの中だと言われます。

 

なによりもお風呂の浴槽は、

フタ以外の5方向に固く閉ざされた形になっています。

この中に身を入れてしまえば、

確かに家の中で最も強固なシェルターになると考えられます。

 

しかも日本のバスタブは、西洋式のシャワールームのタブとは違い、

湯を溜めるために浴槽が深くできているので、

よりシェルターに適しています。

また、もし倒壊した時のことを考えても、

柱に挟まりかねないトイレに比べれば浴槽の中の方が、

命を救う隙間ができやすいと思われます。

 

ところが、日本の暮らしでの地震対策では、

浴槽の中という話は聞かれません。

それよりも、地震への備えとして、

浴槽には常に水を蓄えておくことが伝えられています。

 

地震火災への消火作業や、断水等の緊急時の水として使えるからです。

中でも被災後のトイレの使用は、大きな悩みの1つです。

浴槽に水を蓄えておけば、

少なくとも家族分のトイレ排水用に使うことができます。

 

また、日本人の入浴習慣を考えても、

浴槽に水を蓄えておくのは防災対策にもなりそうです。

浴槽に常に水を蓄えておくのであれば、

浴槽の中は避難場所として使うことはできません。

 

 

■浴槽には水を溜めてはいけない

ところが、物事は単純ではありません。

この浴槽への溜め水が、

地震以外の家庭内事故を引き起こす可能性があるのです。

 

それどころか、じつは水難事故の多くが

家の中で起きているという事実を知ると、

地震のことだけを問題にして安易な結論を出すわけにもいきません。

 

人口動態統計によれば、

日常的な家庭内での事故でなくなっている人は、

年間に1万4000人を超えています。

交通事故による死者は減って4000人を切りました。

家庭内の事故でなくなっている人の数の方がずっと多いのです。

 

それどころか、阪神淡路大震災で関連死を含む犠牲者の2倍の数が、

毎年のように家庭内で死亡する事実が繰り返されています。

その中でも深刻なのは、溺死者の数です。

気候が暖かくなれば、日本各地で、海や川、

あるいは池やプールで溺れた人のニュースが流れます。

報道にこそありませんが、

じつは溺死事故の7割は家の中で起きているのです。

 

その犠牲となっているのは、多くは高齢者と5歳以下の幼児です。

高齢者は滑って転ぶ等の転倒の後、

幼児はいたずら心で覗き込んで転落した後に、

家庭内の水難事故になっています。

 

水の事故は結果が明白で、ほんの数分で生死を分けてしまいます。

死亡事故になるか、あるいは病院にもいかずに、

家族の中の体験談だけで終わらせてしまうかのどちらかです。

ですから、死亡事故数はわかっても、現実に起きている事故の数は、

医学会でも建築学会でも把握されていません。

 

こうした家庭内の水難事故の死者数が、

毎年3000人を超えている以上、

日常的に浴槽に水を溜めて地震への備えとすることを、

正しいと考えるわけにはいきません。

 

小さい子どもがいないからとか、

高齢者が住んでいないからとかいって

一般化するのも避けた方が良いようです。

家庭内事故への予防も含めて、

浴槽は常に空にして、いざという時のシェルターにする。

地震に備える暮らしの知恵のひとつとして、覚えておきたいことです。